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​横網のヘッドスパ

理髪店/ヘッドスパ

 

墨田区横網の住宅地で新しく開業するヘッドスパの計画である。

もともとはクライアントの両親が自宅の1階で理髪店を営んでいた場所であったが、その両親が店を畳むこととなり、代わりに新しくヘッドスパを開業する流れとなった。クライアントは、その隣の店舗に美容院を開業しており、そこはすでに地元の人気店として地域に開かれた場所となっていた。

 

見えること/見えないこと

 

一般的に理髪店、あるいは美容院という建物は、周囲に対して大きな窓を設けている。外からは、施術の様子や店内の雰囲気がわかるようになっていて、一目にそこがどういった店であるかは判別できる。何より、そこでは人の見た目が大きく変わる。一方、ヘッドスパは同じ美容目的とはいえ、施術にはより落ち着いた環境が求められ、たいていの場合、施術は個室で行われる。つまり、理髪店や美容院のように開かれた店構えを作りづらい。しかし、これまでのクライアント、そしてクライアントの両親とこの地域とのつながりを考えれば、少しでも街に開かれた雰囲気の店構えとすることが好ましいと感じられた。

 

近さ/遠さ

 

限られた面積の中で機能的な配置を考えていくうちに、斜めの構成が現れてきた。施術を行う個室の間仕切りの屈曲は、個室の内部に膨らみを作りだし、動線と兼ねたカウンセリングエリアに空間の抑揚を作りだす。あるいはレジカウンターやバックヤードのステップ。小さな室内のここかしこに発生する斜めの線は視覚的な近さ、あるいは遠さの感覚を作りだし、内部空間に面積以上の奥行きを感じさせる。まるで蛇行した路地のような空間を生み出す。外に面した大きな開口部からは、その蛇行した路地空間が顔を出し、開口部に設けられたモルタルの腰壁が、内部を覗きみる行為を誘発する。それは地域に開かれた窓となる。

 

地域との距離/気持ちの距離

 

内部へはその開口部を迂回して入っていく。視覚的な近さと行為の遠さ。そこに一呼吸置くことで、「距離感」が発生する。

ヘッドスパという閉じた空間で行われる行為。そして、地域の一部として開かれた場所であること。斜めの壁面や造作、フラグメンタルに配置された、ステンレス、モルタル、針葉樹合板といった多種の素材は、その閉じつつ開くといった矛盾する条件を満たしつつ、この場所に求められた繊細な「距離感」を作り出す。それは地域との「距離感」であり、何より、ヘッドスパを受けるという少しだけ特別な、そして日常から少し離れた「距離感」を演出する。この場所が、地域の人々にとって近くに感じられ、しかし、日常からは少しだけ遠ざかることのできる、そんな場所であることを目指して設計を行なった。

 

2024.4

所在地 東京都 墨田区

主要用途 ヘッドスパ

1階

​床面積 33.77㎡

施工 宮城建設株式会社

撮影 豊田祐士

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